1/18 勉強会

【研究報告】

担当:松澤

タイトル:浅指屈筋の3・4指と2・5指の肘外反制動機能

  • 背景・目的:浅指屈筋(FDS)は,前腕屈筋群の中で肘外反制動機能に最も重要である.我々は,FDSの3・4指は全標本で前方・後方共同腱,橈骨から起始し,2・5指はほぼ全標本で前方・後方共同腱,尺側側副靭帯前部線維束から起始すると報告した.それらは,起始部が異なるため,肘外反制動機能も異なる可能性が考えられるが検討されていない.そこで本研究の目的は,FDSの3・4指と2・5指の肘外反制動機能を検討することとした.
  • 対象と方法:対象は,Thiel固定遺体13肘とし,2グループに分けた.グループ1は,FDSの停止腱を剖出したIntact条件,FDSの3・4指の停止腱を切断した3/4 cut条件,FDSの全指の停止腱を切断したAll cut条件の順に各条件で腕尺関節距離(JS)を計測した.グループ2は,Intact条件,FDSの2・5指の停止腱を切断した2/5 cut条件,All cut条件の順に各条件でJSを計測した.JSの測定は,肘30°屈曲位とし,肘外反ストレスを0,30,60Nと漸増させ,各負荷量で超音波画像診断装置を用いて計測した.Intact条件と3/4cut,2/5cut条件のJSの比較にPaired t testを用いた.3/4cutと2/5cutのJSの比較にStudent’s t testを用いた.
  • 結果:30Nと60Nにおいて,3/4 cutと2/5 cutはIntactに比べJSが有意に高値を示した.全負荷量において,3/4 cutと2/5 cutのJSに有意差は認められなかった.
  • 結論:FDSの3・4指と2・5指は同様な肘外反制動機能を有する可能性が示唆された.

 

【文献抄読】

担当:堀田

タイトル:骨格筋収縮時の酸素勾配:筋線維タイプの比較

出典:Trenton D Colburn, Daniel M Hirai, Jesse C Craig, Scott K Ferguson, Ramona E Weber, Kiana M Schulze, Brad J Behnke, Timothy I Musch, David C Poole. Transcapillary PO 2 gradients in contracting muscles across the fibre type and oxidative continuum. J Physiol 598(15):3187-3202, 2020

PMID: 32445225 PMCID: PMC7677211

DOI: 10.1113/JP279608

  • 背景:August Kroghは,1919年に骨格筋の酸素ダイナミクスの基本的な理論を打ち出した.その後,酸素計測技術の進歩に伴い,小動物の骨格筋の酸素分圧を血中と間質に分けてリアルタイムで計測可能となった.Fickの式に基づくと,酸素供給(VO2)は酸素の拡散(DO2)と圧勾配(ΔPO2)によって規定される.運動時に劇的に増加するVO2はDO2とΔPO2のどちらにdominantであるか,またそれが筋線維タイプ毎に異なるか否かは不明である.
  • 目的:リン光クエンチング法によりラット骨格筋における毛細血管内(PO2mv)および間質内酸素分圧(PO2is)を計測し,その差であるΔPO2を算出し,安静時と運動時で比較した.
  • 方法:Sprague-Dawleyラット(月齢<7ヶ月, 雌雄含む)のヒラメ筋,腓骨筋,腓腹筋(赤筋と白筋のミックス,白筋のみ)を対象筋とした.麻酔下で電気刺激による120秒間の筋収縮を引き起こし,リン光クエンチング法によりリアルタイムでPO2mvおよびPO2isを計測し,ΔPO2を算出した.
  • 結果:いずれの筋においても,毛細血管と間質の間には,6-13 mmHg程度のΔPO2が存在した.ヒラメ筋,腓骨筋,腓腹筋(白筋)においては,ΔPO2は安静時から収縮時にかけて変化を認めなかったが,腓腹筋(ミックス)においてのみ収縮開始直後に安静時と比べて減少した.
  • 考察:Fickの式から考えると,筋収縮時のVO2の激増は,DO2 dominantであろう.【結論】ラットの異なる筋線維タイプに対して筋収縮を引き起こした結果,ΔPO2は維持,あるいは減少することが明らかとなった.
  • 本文献の意義:筋への酸素供給が運動時に増加するメカニズムが明らかとなった.酸素の圧勾配ではなく,拡散(つまり,毛細血管への赤血球の輸送)が重要な要素であることが明らかとなった.ただし,あくまでも正常な若いラットで得られた事実であり,これが運動耐性の顕著に低下した病態モデルでも同様かは不明である.